文・絵 SKN

BranchTime BBSから転載加筆

 俺が交通事故であっさりと死んでしまって、気が付くと俺は教室にいた。どうやら地縛霊ってやつになったらしい。
俺の死を先生が発表した時、クラスの連中の反応は拍子抜けするほどの無関心さ。涙を流してくれたのは隣の席で幼馴染の祐子だけだった。
俺の意識は、俺の座っていた席の机に固定されて身動きが出来なかった。

「ちょっと、止めなよ・・・そこトオルくんの席だよ?」
祐子の声。
「いいじゃん、もういないんだからさ。ここ眺めいいよね。先生に頼んで席ここにしてもらおうっかなぁ。」
長崎琴美だ。美人で親は金持ちで、ワガママでいつも高圧的。長崎に睨まれると陰湿な虐めにあうのを恐れて、普通の生徒からは避けられている存在。

「ちょっと・・・やめて・・・」
長崎は祐子が俺の机に飾っていた花を教室の後ろのロッカーの上に無造作に置いて、机の・・・俺の意識の上に座った。
『!?』
柔らかい尻の感触が直に伝わってくる。
俺は怒りがこみ上げてきた。
せっかくの祐子の気持ちを・・・この女!

 『どけっ!どけっ!』
必死に念じてみる。しかし何も伝わない。
尻と太腿の柔らかい脂肪が、机となっている俺の上でウネウネと動いている。そして足を組み替えたとき、その中心の暖かい部分がショーツ越しに俺に張り付いた。
『!?』
怒りで机いっぱいに膨張していた俺の意識が、その部分から一気に流れ出していく。
「く・・・あっ?」
琴美が痙攣した。俺は、自分の意識を琴美の肉体の隅々まで一気に広げ、辿り着いた頭の中であっけにとられている琴美自身の意識に接触して・・・

「・・・くぅ・・・ふぁ・・・・・ふ・・・・・」
「・・・長崎さん?」
『祐子が・・・見える?まさか・・・長崎琴美の体を乗っ取った?お、俺・・・悪霊ってやつか?』
「な・・・んでも・・・ない。」
喋れる。久しぶりの感覚。

 
 気がつくと、クラス中が俺たちを注目している。
長崎に楯突いて、いったい祐子がどうなってしまうんだろう?といった好奇心のようだ。
祐子だって、普段は気が小さくてすぐビビるくせに・・・俺の事でこんなにむきになってくれて・・・

思わず祐子に感謝の言葉を・・・と思ったが、ここで長崎が俺に乗っ取られているなんて悟られる訳にはいかない。何せ俺は生きた人間の肉体を乗っ取った邪悪な霊なのだ。退魔師に退治されてしまうかもしれない。
「いつまでもさ、死んだヤツのことなんて考えてメソメソしちゃって、バッカじゃないの?」
ひでぇ・・・ひでぇ事言っちまった。
祐子が・・・泣き出した。
「ふ・・・ふん、ホント馬鹿みたい。シラケちゃった。じゃあね。」
机を降りて床に立つ。
机に縛られている俺から離れ、長崎は元に戻るはずだ。

 


あの日の長崎さんの言葉は乱暴だけど、きっとその通り。
でも、でも私には諦め切れなかった。
好きなんだな、って自覚し始めたのは何年前だろう。
でもずっと、仲のいい幼馴染のまま。
それが今日、変わるはずだった。

私は約束の場所で、もうじき約束の時間を迎えようとしていた。
夏休みに入ってすぐ、トオルくんと一緒に行くはずだった海。
初めての二人だけのデート。
この日のために買ったワンピース。
二人分のお弁当。
私は今日、自分の気持ちをトオル君に伝えるはずだった。

でもトオル君はあっさり死んじゃって・・・
よし、今日は海でお弁当二人分食べて・・・これで悲しむのは終わりにしなきゃ。


 



ユーレイっていうのはこの世に未練があるから、ってよく言うけど・・・
俺の場合はやっぱり祐子との海、なんだろうな。他にたいした未練も見当たらないし。しいて言えば来週最終回のテレビ、みたかったな〜ぐらいだ。
あいつとは幼馴染で・・・本当に兄妹のように判り合っている存在で。
俺が祐子を好きなんだ、って思い始めてからも、気恥ずかしくていつもどおり、ぶっきらぼうに接して。
そんな祐子が夏休みになったら一緒に海に行こうって誘ってきた。初めての事だ。二人きりでなんて。

その時、俺は決めていた。
ダメもとでもその時は俺の気持ちを伝えよう、って。

ゆっくりと走り出す特急の指定席。
祐子、困ってるよな。あの長崎琴美なんだもんな、俺。
「祐子って怖がりだけど、ユーレイっていると思う?」
何言ってんだ俺・・・
「えっ?あ・・・判らないけど・・・最近はいたらいいのにって・・・でも何で?」
「そっか・・・例えばさ、そのユーレイがこの長崎さんに取り憑いてたりしたら、怖い?」
「・・・」
「だよな、怖がりのユコタだもんな・・・」

私のことを子供の頃、ユコタって呼んでたのはトオルくんだけ。
『ゆうこちゃんでしょ?いってみて。』
『ううぅ〜ゆぅこたっ!』
恥ずかしかったのか、本当にいえなかったのか、そのまま私は小学校ぐらいまでトオルくんにはユコタだった。
なんで、長崎さんが?まさか?トオルくんの幽霊が長崎さんに?私をからかってる?でも、なんで?
聞いてみようか・・・でも違ったら恥ずかしいけど・・・
でも・・・でも!
私は長崎さんの目を見つめて口を開く。
「幽霊・・・トオルくんなら・・・怖くないよ。」
「本当かッ!?」
長崎さんの表情が輝く。
そうだ、間違いない。
この表情、ずっと見たかったトオルくんの嬉しい時の。

「うん。幽霊でもいいから会いたいって。ずっと・・・ずっと思ってたから。怖くなんか・・・ぜんぜんないよ。」



「今日一日だけ、長崎には悪いけど。」
「今日だけ?」
「うん。俺、祐子と海に行って、どうしてもしたい事が有ったんだ。いつまでも長崎を乗っ取っている訳にもいかないし。今日だけ・・・」


潮風がひんやりとしてきて、浜辺にいた人達は徐々に引き上げていく。
俺と祐子は並んで腰を下ろし、波が寄せて崩れるのを一緒に眺めていた。
「トオルくん、楽しかったよ。有難う。」
「俺のほうこそ。長崎にも感謝しないと。」
「そうだね。」

俺は少しためらい、思い切って祐子の肩を抱いた。
「あ・・・」
「祐子、あの、俺どうしても伝えておきたいことが有ったんだ。多分これを伝えたいために・・・この世にとどまってたんだと思う。俺は・・・」
「待って!!ダメ、先に言われたら私が言う前に成仏しちゃうじゃない。私、トオルくんのことが大好き。大好きなんだ。今までも、これからもずっと!」
「祐子・・・」
「行かないで・・・トオルくん。私・・・」
「祐子、俺・・・すっげ〜嬉しいよ。有難う。でも、俺はここにいちゃいけないんだと思う。祐子のことが大好きで大好きで・・・そんなヤツがいたって覚えてて欲しいかな。でもそれに引きずられて祐子が不幸になるのは絶対やだな。俺の分も幸せに過ごしてばーちゃんになって、また会えたら楽しかった事を聞かせてくれ。」
「トオル君!!」
俺はひとつ深呼吸をした。これを伝えたら・・・俺は多分・・・
「祐子、俺も大好きだよ。」
「とお・・・んっ」
俺のファーストキス。
腕の中の祐子の体の温もりを、俺は忘れないように必死に感じていた。




景色は濃いオレンジ色に染まり始めている。
「トオルくん・・・?」
「うん・・・まだみたい?俺のまま・・・おかしいなあ、まだこの世に未練があるから?」
私はトオルくんの手を引いて立ち上がった。
「いこう、風邪引いちゃうよ。」
歩き始めても、いつトオルくんが逝ってしまうか判らない不安で、少しでも長くトオルくんを感じていたくて・・・ぴったりと身を寄せて海の家に向って歩く。何でだろう、長崎さんの体なのに、全然嫌じゃなかった。

私達はタクシーを降りた。
「うわあ・・・ここは?」
「おじさんのマンションだよ。海に行く時は着替えに使ってもいいよって、鍵借りてあったんだ。誰も住んでないの。」
トオルくんがまだいるのは、きっと私の思いに縛られているんだと思う。
トオルくんが私の気持ちを受け入れてくれたら、私はこの部屋でトオル君と、って決めていた。
薄暗い部屋に入って洒落たスタンドのスイッチをいれる。窓の水平線にはまもなく完全に太陽が沈む所。
長崎さんの姿ではしゃぐトオルくん。
女の子同士、と頭に一瞬過ったけど、関係ない。トオルくんなんだから。

トオルくん?私も・・・今日どうしてもしたかったことが有ったんだ・・・」
告げる言葉と一緒に気持ちが溢れ出す。
「いいのか?長崎さんの・・・で?」
「うん・・・」
「祐子っ!」

「トオルくんのせいで・・・私、女の子好きになっちゃいそうだよ。」
「ご・・・ごめん・・・でも、でも俺、これ、凄い気持ちいい。」
「私も・・・」
ベッドの中でお互いの全身を愛し合う。
お互いの胸、お互いの唇。
そして熱くなっている部分を合わせて・・・
「祐子ぉ!」
「ああああああっ・・・」



そして、その時が訪れたのを俺は感じていた。
遂げられた思い。
腕の中の祐子の眼から涙が零れる。
無言のまま、もう一度強く抱きしめあう。

部屋の隅から、いきなり黒いローブを纏った女性が現れた。
「私は死を管理する者。予定外の行動で貴方の魂を送る時間が大幅にずれています。」
死神?天使?
「見る者の過ごしてきた人生でどちらとでも見えるようです。では、よろしいですね?」
俺は最後に祐子に唇を合わせ、髪の毛を撫でた。
「ユコタ、じゃあな。」
「うん・・・私、絶対楽しい人生を送るよ。」
「おうっ、じゃあ・・・な!」

「よろしいですね。では・・・」
死神?が手に持った本を開き何かを詠み始めると、長崎琴美の体は眼を閉じ、ゆっくりとベッドに倒れる。
「何?魂が・・・なかなか・・・抜けてこない?ふんっ!はあああああっ!しぶといわね。」
死神が更に念を込めると、しばらくして観念したように肉体からぼんやりと光る何かが抜け出て・・・死神の声とともに窓から外へ。
「ふう・・・魂は送られました。」
あっけない終り。
私は感謝していた。
トオルくんのおかげで、今日という一日があったおかげで、きっと明日から私は強く生きていけるはず。


ばいばい、トオルくん。今度会ったら楽しかった自慢話をいっぱい聞かせてあげるね。
手で涙をぬぐう。もう泣かないよ。ありがとう。
 


 以上で満足、な方は以下は蛇足です。読まないほうがいいかもです。
SKN





















「天国、にいったんですね。」
死神に問いかける。
「天国?いえ、この魂は若いのに他人の気持ちを顧みず傷つけ、自分の過ちを認めず他人のせいにして過ごしてきたおかげで相当歪んでいましたので。煉獄でしばらく焼かれることになるでしょう。」
「えっ?そんな・・・そんな人じゃなかったはずです!」
「いいえ。本来であれば逆恨みされた人物に8日前に刺し殺されて寿命を終える予定でしたが。何故か普段と違う行動をしたおかげでこんな所で。」
「8日前・・・?」
トオルくんが死んじゃったのは1ヶ月以上前なのに?
「とにかく私の仕事は終りです。長崎琴美、享年17歳と121日。本日その魂は送られました。貴方と今度会うのはまだまだ先のようです。ごきげんよう。」
死神の姿が消える。
ちょっと・・・
ちょっとまって・・・
寿命って・・・長崎琴美の?
死神が迎えに来たのは・・・長崎さんのこと?
「うん・・・・」
腕の中で、長崎琴美の体が動いた。
「・・・あなた・・・やだ、なんで?なんで私こんな・・・はっ裸!??きゃあああっ!何?」
長崎琴美だ・・・
長崎琴美の代わりにトオルくんの魂が!?

怖い顔で長崎琴美が私を睨みつけている。
「納得のいく説明をしてくれなきゃ、私あなたに誘拐されたって警察に電話するわよ?おまけにレズプレイまでされたって。」
「そんな・・・信じてもらえないかもしれないけど説明します。」



「じゃあ、私が死ぬ代わりにトオルの魂が?私はこのまま生きていけるの?それはそれでラッキー?」
「多分・・・もう死んだことになってトオルくんの魂はあなたの代わりに煉獄で焼かれて・・・」
「ちょっと待ってよ!私が悪人だって言いたいわけ?あっ・・・」
「えっ?」
「何・・・ちょっと思い出してきた・・・・」
「長崎さん?」
両手で頭を抱えて押し黙る長崎琴美。
「思い出した・・・」


「あの時・・・死神が現れて・・・体の中の魂の緒で繋がってた・・・・・長崎さんの魂が・・・」
「・・・えっ?」
「引っ張り出されるときに・・・俺と間違って長崎さんの魂が引っ張られてるんだと思って、大変だと思って必死で魂の緒を掴んで引っ張ったら・・・」
「えっ!?じゃあ・・・トオル君!?」
「うん、引っ張ったら長崎さんの魂が裂けて、中身だけが体から引っ張り出されていって。」
「うんうんっ!」
「魂の緒に付いてた長崎さんの魂の外側がかぶさってきて俺の魂を中に取り込んで・・・私、長崎琴美の魂として魂の緒でこの肉体に繋がれた。」
「じゃあ・・・逝かないで済むの?」
「そうみたい。生きてる。長崎琴美として、だけど。」
「名前なんてどうでもいいよ。長崎さん、大好き。」
「祐子・・・」
 

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